2007年度 鑑賞ツール研究会 まとめ

2021年2月20日土曜日

【2】アーカイブ 【6】鑑賞ツール

 旧HPのURL

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2007年度 鑑賞ツール研究会

「あーとネット・とちぎ」鑑賞ツール研究会からの御報告です。

 

第1回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2007427日(金曜日)
  
1800分~
会場
宇都宮美術館 会議室/展示室

参加大学関係者  4名
  
中学校教員   2名
  
美術館学芸員 6名
  
合計      12名

 2007(平成19)年4月27日、第1回〈鑑賞ツール研究会〉が、宇都宮美術館を会場に開催されました。
 今回は、「言葉のツール」としての対話型鑑賞について討議したあと、宇都宮美術館で開催中の企画展
〈宇都宮美術館開館10周年記念展 シュルレアリスムと美術 イメージとリアリティーをめぐって〉を題材に、対話型鑑賞の実演も行なわれました。

  • 配付資料1アメリア・アレナス「さあ、やってみましょう!」
  • 配付資料2アメリア・アレナス「司会役に挑戦の前に」
  • 配付資料3「アレナスの言葉」

「配付資料1」と「配付資料2」は、200311月に開催された〈アメリア・アレナス鑑賞教育セミナー〉における配付資料より。
「配付資料3」は、〈@museum〉のホームページより。

【今回の議題】

対話型鑑賞についての考え方

ビジュアル・シンキング・カリキュラム(見えている部分だけを対象とすることで、精緻な視覚的観察に基づいた洞察を鑑賞者に促す)に基づいて行なう。

美術史的な知識は除外して、作品については「見えているものだけが全て」という考え方を採る。(むしろ、知識は無い方がよい。)

対話型鑑賞を行なったときの失敗談について

小学校の高学年になると子どもたちがなかなか発言しなくなってしまうので、トーカー(司会者)が待てなくなり、催促をしたり、誘導したりしてしまう。(宇都宮美術館)

「なにが描かれている?」というのはよくない発問だった。この発問だと子どもたちは描かれていること以外は話してはいけないと思ってしまう。「どう思う?」がよいのではないか?(小杉放菴記念日光美術館)

まず、どの作品を選ぶかということが大切。(中学校教員)

生徒の発達段階を把握しておくことが大切。(中学校教員)

美術館が目ざす対話型鑑賞と学校が求める対話型鑑賞

美術館では、鑑賞者が主体性を認識して、自覚的に鑑賞できるようになることが重要と考えている。(美術館学芸員)

学校でも、最終的な目標は同じであるが、それ以前に、技法や美術史など、教科として教えなくてはならないことが決められている。(中学校教員)

さらに学校では、子どもたちに対する評価を行なうためにも、言葉の表現に結びつける鑑賞が求められている部分がある。(中学校教員)

鑑賞を言葉の表現に結びつけることを、思考の言語化として捉えるならば、これは他の教科でも育成できる内容になってしまう。学校の教科としての「美術」が生き残っていくためには、何か、美術ならではの意義が必要になるのではないか。(美術館学芸員)

中学校の対話型鑑賞と小学校の対話型鑑賞

対話型鑑賞では、作品を言語化しなければならないので、一定の水準以上の国語力が必要とされる。また、トーカーには、その場に集まった人たちの意見をまとめ上げる力が重要になってくる。(中学校教員)

学校の子どもたちを対象とした対話型鑑賞において、トーカーの役割を行なうのは、担任の先生がよいと思う。(大学関係者【小学校教員】)

日本の対話型鑑賞とアメリカの対話型鑑賞

日本とアメリカでの教育の仕方のちがいは対話型鑑賞にも影響しているだろう。日本の教育現場では、子どもたちが積極的に発言するのに勇気がいる。対話型鑑賞においても、アメリカ式をそのまま用いるのではなく、日本で独自の工夫が必要ではないか?(美術館学芸員)

対話型鑑賞の実践(例)

 宇都宮美術館の展示室を会場にして、宇都宮美術館の伊藤伸子さんと小杉放菴記念日光美術館の鈴木日和さんに、それぞれが、自らで行なわれている対話型鑑賞を実演していただきました。

対話型鑑賞の対象とした出品作品

  • サルバドール・ダリ《幻想的風景 暁》
  • サルバドール・ダリ《幻想的風景 英雄的正午》
  • サルバドール・ダリ《幻想的風景 夕べ》
  • ポール・デルヴォー《階段》

対話型鑑賞を実演したあとの検証

対話型鑑賞で自由に自分の考えを話すことは楽しいが、結局、「本当はどうなのか」という疑問は残り、消化不良の感が否めない。(大学関係者)

美術館で対話型鑑賞を行なったあとに、事後学習として使えるワークシートを作成してみてはどうか。(大学関係者)

対話型鑑賞を行なう際、トーカーが発する質問には、活発な発言をうながす「開かれた質問」と、発言を停滞させてしまう「閉ざされた質問」とがあることが分かったので、今後、質問を具体的に分類し、効果的な質問を集めた「質問リスト」を作成してみてはどうだろうか。(美術館学芸員)


次回の研究会

次回は、宇都宮美術館において開催し、〈宇都宮美術館開館10周年記念展 シュルレアリスムと美術 イメージとリアリティーをめぐって〉に展示されている作品を対象に参加者がトーカー(司会者)の役を体験してみる。

 

第2回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2007518日(金曜日)
  
1800分~
会場
宇都宮美術館 会議室

参加大学関係者   1名
  
中学校教員   1名
   
小学校教員   2名
  
美術館学芸員 3名
  
合計        7名

 2007(平成19)年518日、第2回〈鑑賞ツール研究会〉が、宇都宮美術館を会場に開催されました。
 今回は、前回に引き続き、「言葉のツール」としての対話型鑑賞について、主に下記の資料などを参考に、討議を進めました。

  • 資料1アメリア・アレナス「授業の進め方」
        『mite!ティーチャーズキット』1-3(2005年、淡交社)
  • 資料2「対話型鑑賞・体験シート」
        (アメリア・アレナスの対話型研修に基づくチェックシート)

【今回の議題】

前回の対話型鑑賞の体験をふまえた感想や意見

対話型鑑賞を実際に体験することで、そのメリットを実感できた。とくに、対話で取り上げた作品についての問いを、その後も意識し続け、いつか自分なりに解決したいというモチベーションが継続している。

対話型鑑賞の限界についても冷静に洗い出し、この研究会で問題解決を検討する必要がある。

対話型鑑賞の方法も発達段階と対比して構造化できないか。ハウゼンの発達段階などに対応させて、対話型鑑賞の方法を構造化すると、その効果を検証することもできるのではないか。

前回にも話題になった、学校と美術館との、それぞれの意図の違いをどう克服するかという課題は、依然、のこされている。

ビジュアル・シンキング・カリキュラムのようなスタータ・キットを、県内の美術館の所蔵作品を対象に作成できないか。それらを蓄積していくと、かなり充実した鑑賞教材になるのではないか。

バインダー・タイプで提供されている「ニューヨーク近代美術館の教師用キット」は、テキスト(教師が問いかける3つのシンプルな質問など)と、作品のスライドがセットになっていて、ビジュアル・シンキングの理念に基づいた構成であるが、鑑賞者へ作品の情報を提供する点が、アメリア・アレナスの方法と異なっている。

アメリア・アレナスの方法にとらわれず、鑑賞者に情報を提供することも考慮した方がよいのではないか。

年齢などの発達段階に応じた情報の提供は、あえて禁じる必要はないと思う。ただし、その場合、どの程度までの情報を与えたらよいかなど、むしろ、その手法について考えていきたい。

表現行為は作者個人の状況と結びつくものなので、作者についての情報も禁じる必要はない。

学校の授業での対話型鑑賞について

mite!ティーチャーズキット』は、発達段階を考慮して作品が選定されており、巻末には、授業の進め方や重要なポイント、作品についての解説などが収録されているので参考になる。また、本来は対話型鑑賞を目的とする書籍ではないが、『「分析批評」による名画鑑賞の授業』(岩本康祐〔著〕、1990年、明治図書)は、発問の工夫や、プロセスの途中で必要な情報を子どもに提供するやり方など、参考になる点もあるのではないか。

小学校でも、対話型鑑賞を取り入れた実践は、少しずつ広がっている。

小学校の研究会では、子どもへの発問を集積したデータベースのようなものを、実際に作ろうという試みがなされている。対話型鑑賞における発問でも、同様のものを作れるとよいのではないか。

中学校における美術の鑑賞では、社会科や国語科などの他の教科とどう違うのかという点を明確に示さなければならない。対話型鑑賞で、どのように「美術」の独自性を出していくかが課題である。

「美術」(の教科)ならではの特徴としては、「実体験」や「本物」を重視することが挙げられるのではないか。

「美術」においては、好きか嫌いかという感性の問題が重要になってくる。

他者に勧めることができるかどうかで、好きか嫌いかを判断させるのもよい。

「あなたは、この作品のどこをお薦めしますか?」という発問は、作品のよい点を、自分で見つけることにつながっていく。

「美術」を通して、自らの感性に自信を持たせることも目標になるのではないか。

対話型鑑賞でのトーカーがスキルを高めていくための研修方法について

 観察者を設けて対話型鑑賞の実践を記録し、その記録を参考に、改善点などを検討する方法が説明された。そして、対話型鑑賞の実践を観察するために活用する「対話型鑑賞・体験シート」(資料2)が配布され、内容について検討した。

「対話型鑑賞・体験シート」の項目

  • 〈開かれた質問〉
  • 〈閉ざされた質問〉

交流を促すナビゲーション

  • 1. 開かれた質問
  • 2. 思考のための助言
  • 3. 発言の多様化
  • 4. 対話のための焦点化 etc.

リレーションを築く応答

  • a. 確認
  • b. 繰り返し
  • c. 言い換え
  • d. 付け足し
  • e. 発言の掘り下げ etc.

 「対話型鑑賞・体験シート」の項目については、それらが思考の言語化を目指して、対話のテクニックに焦点化され過ぎているのではないかという疑問が提起され、このことの問題点に関して討議された。

「対話型鑑賞・体験シート」のチェック項目が美術の鑑賞に関するものではなく、対話法のテクニックであるとするならば(対話型鑑賞のキーワードは「思考の言語化」)、道徳など、他の教科でも使えるのではないか。

他の教科での対話型学習の事例としては、中学校の社会科で、戦争について調査させ、合意形成の方法を学んだ例がある。ここでも、教師の役割は討論の交通整理であった。

 今回、「対話型鑑賞・体験シート」に基づいて対話型鑑賞の実践をモニタリングする予定となっていたが、時間の都合で次回に廻すこととなった。

 また、鑑賞のための「言葉のツール」について考える場合、対話として「言葉」を話すこと(対話型鑑賞)だけに限定するのではなく、記述として「言葉」を書くことにも注目してはどうかという提案があり、今後、検討していくこととした。


次回の研究会

次回は、宇都宮大学教育学部附属中学校において開催し、俵屋宗達の《風神雷神図》を対象とした対話型鑑賞を体験したあと、「体験シート」を活用して検証してみる。

 

第3回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2007615日(金曜日)
  
1800分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加大学関係者  4名
  
中学校教員  1名
  
小学校教員  2名
  
美術館学芸員 5名
  
合計     12

 2007(平成19)年615日、第3回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 これまでの討議の中で、対話型鑑賞についてのさまざまな意見が出るようになってきたことを踏まえ、今回は、中学校の先生が以前に子どもたちを対象に行なった対話型鑑賞に改良を加えて、研究会の参加者を相手に実演していただき、その後、内容について検討しました。

【今回の議題】

対話型鑑賞の実践

今回の対話型鑑賞の実践には、3人の画家による《風神雷神図屏風》を使用。

俵屋宗達・尾形光琳・酒井抱一の各画家による、三者三様の描き方を比較できる画像を準備。

本日のトーカーには、以前に、この作品を用いた授業での実践経験がある。

1名のトーカーと12名の鑑賞者によって対話型鑑賞を行なう。

実践のあとでトーカーから

実際の授業のときには、「日本の美術も面白い」ということを生徒に伝える"ねらい"があった。

これまで、生徒たちがあまり見たことがない作品だったので、はじめに、「風神雷神図屏風」というタイトルと「俵屋宗達」という作者名を伝えた。

作品がどのような構図から成り立っているかを、ペアで考えさせる活動を行なうことにより、その作品に興味をもたせたあと、スライド映写とカラーコピー(A3判)を用いて鑑賞した。

知識を与えることを目的とするのではなく、対話をしながらじっくりと作品を鑑賞することで、いままで気が付かなかった部分が見えるようになる。

また、別の機会に「琳派」の作品を見かけたときにも、興味や関心を持って見ることができるようになることを目的とした。

その目的を達成するため、生徒から出た意見をつなげて、「浮いているみたい」「背景がない」『余白の美』、「雲が汚れのように見える」「雨雲なのかもしれない」『たらし込みの技法』というように、最後に少しだけ解説を加えた。

実践のあとで学校の先生から

学校行事として行なう場合には、とくに配慮しないこともあるが、対話型鑑賞を、授業として実施するときには、評価の問題を考える必要がある。

授業としての対話型鑑賞における評価は「発言内容」「鑑賞の際の様子」「感想」などから判断することが多い。

どれだけ熱心に作品を見ているか、面白い見方をしているか、他者の意見も聞いているか、といったことが対話型鑑賞における評価の基準となる。

対話型鑑賞は本来、本物の作品を前に行なえるのが望ましい。

作品の視覚情報のみで対話と授業を進めることには、むずかしい点もあるので、必要に応じてソースを提供し、効果を上げることも考慮すべき。

学校で対話型鑑賞法を取り入れるときには、「文章化」という作業を通じて国語科との協同も考えられる。

国語科では教えることのできない、美術ならではの言葉を養うことも必要ではないか。また、美術作品を見て、美術の話しをするのだから、やはり、美術科の範疇に入るのではないか。

対話型鑑賞は、作品を見て、"楽しむ"ことが目的となっている点が、学校では批判されやすい。あくまでも授業として行なっていることを明確にするためにも、適切な評価が必要とされる。

実践のあとで美術館の学芸員から

美術館における対話型鑑賞の実践では、鑑賞者が感じているものを対話によって引出すことが肝要で、誘導になってはいけないと、いつも意識している。

美術の授業での鑑賞能力の評価とは、具体的にはどういうことなのか。鑑賞能力を評価することは可能なのだろうか。

対話型鑑賞を行ないやすい"ねらい"を設定し、それを評価することは可能ではないか。たとえば、「創造的な鑑賞を行なう」ことを"ねらい"とし、「創造的な鑑賞をすることができたかどうか」を評価するというように……


次回の研究会

次回は、「言葉のツール」シリーズの最終回として、小杉放菴記念日光美術館において開催し、これまで4回にわたって検討してきた対話型鑑賞の傾向と対策について、さらに検討を深めていく。有志には、対話型鑑賞の手法を用いた授業案やトーク案を考えてきてもらう。

 

第4回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2007729日(日曜日)
  1500分~
会場小杉放菴記念日光美術館 会議室

参加中学校教員  1名
  美術館学芸員 4名
  合計       5名

 2007(平成19)年729日、第4回〈鑑賞ツール研究会〉が小杉放菴記念日光美術館の会議室を会場に開催されました。
 「言葉のツール」としての対話型鑑賞について、これまで3回にわたり、理念と方法を学びながら具体的に実践したことを踏まえ、今回は、「言葉のツール」のまとめを行ないました。

【今回の議題】

展覧会の鑑賞

「あーと・ネットとちぎ」のプロジェクトの一つである〈対話型鑑賞実践研究会〉が対象とする〈大正ノスタルジー "小林かいち"と絵葉書の世界〉展を鑑賞した。

「言葉のツール」についてのまとめと提言

宇都宮市立一条中学校の青木孝浩先生がまとめられた〈対話型鑑賞法における「言葉のツール」考察レポート〉(以下、「青木レポート」)と、対話型鑑賞法による授業の実践資料をもとに討議をした。

「あーとネット・とちぎ」の平成19年度事業の一つとして、7月から8月にかけて小杉放菴記念日光美術館を会場に開催される〈対話型鑑賞実践研究会〉は、「鑑賞ツール研究会」で討議した内容も踏まえた実践であるため、〈対話型鑑賞実践研究会〉についても、小杉放菴記念日光美術館からの説明が行なわれた。

「言葉のツール」としての対話型鑑賞は、その理念や方法を学ぶだけではなく、実践を行ない、経験を積み重ねることが、有効性を考える上で必要となるのではないか。

対話型鑑賞を究めていくには、これからも、学校や美術館におけるトークの実践例を、「あーとネット・とちぎ」のWebサイトに掲載し、それを検討し続けていくことが有効なのではないか。

対話型鑑賞は、結局、トーカーのスキルにつきるのではないか。

対話型鑑賞は、子どもたちに、作品を一緒に見て話し合うおもしろさを伝えられれば、それでよいのではないか。

美術館では、子どもたちに作品をおもしろいと感じてもらえたら、その鑑賞は成功したものだと捉えている。また、それだけ、子どもたちの関心を得るのは、むずかしいということである。

学校でも、義務教育のレヴェルでは、一枚の絵を見ておもしろいと感じてもらえたら、それでもよいのではないだろうか。

作品から感じたことを言語化するためには、作品をよく見ることが必要になる。そこに対話型鑑賞を行なうことの意義もあるのかもしれない。

「言葉のツール」として対話型鑑賞があるが、「言葉を使わないツール」というものもあるのではないか。

言葉を使わないことに、どういう意味があるか。

美術作品の、言葉に還元できない部分を理解することも重要ではないか。

やはり、対話型鑑賞では、「いっしょに見る・話す楽しみ」を子どもに伝えることが目標となる。

「言葉のツール」からの展開

「青木レポート」の中に、対話型鑑賞でトーカーが用いる「投げかけ」の言葉を、そのままキャプションにして、学校内に展示されている名画の複製に付ける方法が紹介されていた。このような「投げかけキャプション」を、教材キット(=鑑賞ツール)として製作することも考えてよいのではないか。

対話型鑑賞を行ないやすくするために、普段からの取り組みとして、学校に飾ってある複製画に「投げかけ」の言葉を記したキャプションを付けてみたところ、たいへん反応がよかった。たしかに、キット化して鑑賞ツールとする可能性があるかもしれない。

どのような作品にも共通して対応できる、汎用性の高い「投げかけキャプション」が作成できれば非常に役立つ。

子どもたちの発達段階を考慮し、その鑑賞能力に合わせた「投げかけキャプション」が作成できれば、ステップ・アップ・キットとして、学校で使用するのに効果的だ。

鑑賞ツールでスターター・キットに加えてステップ・アップ・キットもできれば、研究会の成果として、学校などにもアピールしやすいのではないか。

栃木県内にある、いろいろな美術館の所蔵作品に対して「投げかけキャプション」を製作してもよいのではないか。


次回の研究会

次回からは、「触れるツール」として実際に使える教材キット(鑑賞ツール)の製作について検討するので、各自がそれぞれのアイデアを考えてくる。

次回の研究会までには、10回にわたる〈対話型鑑賞実践研究会〉の鑑賞教室が終了しているので、内容を総括して反省を行なう会合も併せて開催したい。

 

第5回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2007824日(金曜日)
  
1800分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加大学関係者  1名
  
高等学校教員 1名
  
中学校教員  1名
  
美術館学芸員 4名
  
合計       7名

 2007(平成19)年824日、第5回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 今回は、7月から8月にかけて小杉放菴記念日光美術館で実施された〈対話型鑑賞実践研究会〉についての報告と反省を行なったあと、これから実際に製作しようとする「鑑賞ツール」の具体的なイメージについて討議しました。

【今回の議題】

〈対話型鑑賞実践研究会〉について

美術の対話型鑑賞によって、「言語能力」の育成を図ることができるのではないか。

「言語能力」の差を共同学習によってカバーし、子ども同士で、その能力を引き上げることができれば実りが大きいだろう。

近年、低下しているとされる、子どもたちの表現力と読解力の向上も期待できる。

対話を行なうにあたり、「嫌なことは言わない」という約束を守らせたり、同じ言葉を使わない練習をするなど、一定のルールを作る必要があるのではないか。

〈対話型鑑賞実践研究会〉でトーカーを務めたのは楽しい経験だったし、トークが予想以上に盛り上がることもあったので、それで当初の目的は果たせたと思うが、対話型鑑賞では、つねに「楽しさ」の先が求められていることは意識しておかなければいけない。

対話型鑑賞の「楽しさ」といっても、それについては、子どもたちがどのような状況にあることが「楽しんでいること」となるかを、それぞれのトーカー(教師)が共通理解を持つ必要があるだろう。そして、この「楽しさ」の内容を細かく説明できると、研究会の成果として外部へもアピールできるのではないか。

「楽しさ」の具体的な内容としては、「作品に興味を持つ」ことだと考えられるのではないか。

美術館では、安易に「楽しさ」という言葉を使いがちだが、「楽しさ」の内容をもっと具体的に示す必要がある。

宇都宮美術館では、トーカーがとくに対話を促さなくても、子どもたちが、主体的に対話をして、子どもたちだけで対話がまわる状況となれば、対話型鑑賞が成功したと考えている。

対話型鑑賞の「楽しさ」とは、参加者に主体性が生まれ、参加者同士の対話が展開することの充実感が持て、美術作品に対する興味や関心が引き起こされるということでよいのではないか。

対話型鑑賞が、「見る」という活動を深める方向性を持つのならば、トーカー自身が、深まりの目標値を持っていないと、子どもたちの鑑賞が深まっている程度がわからないのではないか。そのためには、対話型鑑賞のケースやパターンを整理して、トーカーが予備知識として持つといった教材研究が必要となる。

子どもたちが対話型鑑賞をどのように受け止めているのかを、子どもたちの視点から、知る必要もある。

対話型鑑賞を行なう上では、やはり、知識の提供も必要ではないか。

また、知識の獲得にも、楽しさを体感することが必要となる。

美術館では、子どもたちに「楽しかった」と感じてもらえればそれでよいが、学校で評価を行なうことを考えると、やはり、それだけではむずかしいと感じた。

そこで、美術館と学校が、お互いの役割分担を明確にして、連携を深めていくことが必要となる。対話型鑑賞は美術館で行なうからこそ、効果が上がるという側面もあるのではないか。

今回の〈対話型鑑賞実践研究会〉においては、どうしても時間が足りないという問題があった。

今回の〈対話型鑑賞実践研究会〉は小学生が対象であったが、これが、思春期の中学生になると、意見が出にくくなり、対話がむずかしくなる。アート・ゲームなどの小道具により、話しやすい雰囲気を作る練習が必要になってくると思われる。

「鑑賞ツール」の開発についての考え方

学校にも貸し出すことができる、教材に使えるツールの開発を目標としてはどうか。

学校と美術館のそれぞれで必要だと考えられる「鑑賞ツール」はどのようなものか。

これから、来年の3月までの間に何種類かのサンプルを製作してみる。

よいアイデアがあったら、しっかりとした商品として製作するプロセスへ移行する。

「鑑賞ツール」に関する具体的なアイデア

触れることができるツールを考えることができないか。

触れることができれば、目の見えない人も理解することができる。

作家の意図を理解させるために触れさせるのではなく、空間を認識させることを目的として、触れさせることにしたい。とくに、最近の子どもたちは、空間を認識する能力が発達していないように感じられる。

触れることができるツールは、立体を見るための教材となる。

触れることで、手触りの問題に意識が向けば、素材について考える契機になる。以前に栃木県立美術館が製作した素材BOXのようなツールになるのではないか。

実際に製作するのならば、とりあえず、紙媒体を用いるのが廉価でよい。

それならば、前回の話しにも出た、「きっかけカード」や「投げかけキャプション」について、さらに研究してはどうか。

美術館で発行している絵葉書に「投げかけキャプション」を組み合わせたキットが製作できれば、学校でも、他の美術館でも手軽に使える、汎用的な鑑賞ツールになる。

まずは、絵葉書とセットで用いる「投げかけキャプション」を考えてみよう。


次回の研究会

とりあえず、次回は作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」についての検討を深めることにし、各々、美術館から素材となりそうな絵葉書を持ち寄ってくる。

 

第6回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2007921日(金曜日)
  
1830分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加大学関係者  2名
  
中学校教員  1名
  
美術館学芸員 5名
  
合計     8名

 2007(平成19)年921日、第6回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 今回は、「あーとネット・とちぎ」のホームページからダウンロードし、印刷して、配布することができるリーフレットのデザインを検討したあと、前回からの課題であった、美術館で発行している絵葉書に「投げかけキャプション」を組み合わせたキットの製作について、実験を行ないました。

【今回の議題】

「あーとネット・とちぎ」のリーフレットについて

「あーとネット・とちぎ」のホームページからダウンロードし、各自で印刷して、配布することができるリーフレットのデザインを、中沖尚行氏(宇都宮文星短期大学)に依頼していたが、デザイン案が提示されてきたので、それについて検討し、下記のような改善点を伝えることになった。

連絡先を記した部分が読みづらいので、表記を改め、順番を入れ替える。

中段の、活動を紹介している部分は、読みやすいよう、箇条書きに修正する。

モノクロ印刷用のバージョンがあると、各自で印刷する場合に、安価で、手軽に行なうことができる。

なお、リーフレットのPDFファイルをダウンロードするボタンは、なるべく、トップページの近くに置いた方がわかりやすいので、有限会社 ダガ・グラフィックスの市原氏とも相談し、ホームページの構成を検討する。

絵葉書を用いた「投げかけキャプション」の実験

各自が持ち寄った美術作品の絵葉書を全て並べ、鑑賞者に投げかける言葉(「投げかけキャプション」の内容)を考えて付箋に記し、絵葉書に貼ったあと、その言葉について全員で考察した。(以下は、その結果)

「何をしている?」などといった、作品にストーリーを求めて、その内容を問うものが多かった。

作品にストーリーを考えさせるものは、それぞれ、反対の内容のものを求めても面白いのではないか。【例:「悲しい話」と「楽しい話」など】

今回、作品の素材や構成について問うものが、すぐには出てこなかったが、それは何故なのか。

次回は、そうした、素材や構成について留意し、キャプションを考えてみてはどうか。

「鑑賞ツール」の新しいアイデアについて

今回、「鑑賞ツール」の新たなアイデアとして、下記の二つの提案があった。

寺田寅彦による「浮世絵の曲線」(『寺田寅彦随筆集』第二巻より)から発想し、浮世絵をテーマにしたツールの提案。【詳しくは、宇都宮市立一条中学校・青木孝浩氏の投稿記事「05あーとネット・とちぎ : ヒントになりますか?」を参照】

前回の〈鑑賞ツール研究会〉でも提案されたアイデアであるが、次回に検討する素材や構成について問う「投げかけキャプション」との関係からも、触れる教材(触って学ぶ教材=素材や技法に着目したツール)の再検討。【例:日本画と油彩画の手触りのちがいを体験できるツールなど】


次回の研究会

作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」のうち、素材や構成に関して問うものについてのアイデアを持ち寄り、それをテーマに討議する。

 

第7回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時20071026日(金曜日)
  
1830分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加中学校教員  1名
  
美術館学芸員 4名
  
合計       5名

 2007(平成19)年1026日、第7回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 前回から引き続いて、美術館で発行している絵葉書に「投げかけキャプション」を組み合わせたキットの製作について実験を行ないましたが、今回はとくに、素材や技法、構成などについて問う「投げかけ」の言葉についてアイデアを出し合い、討議しました。

【今回の議題】

絵葉書を用いた「投げかけキャプション」の実験(続き)

作品の素材や技法、画面の構成などに関する技術的な事柄を意識させる言葉を考え、付箋に記して作品の絵葉書に貼り、鑑賞者に投げかける言葉(「投げかけキャプション」の内容)として適当かどうかについて考察を進めたが、討議の過程で、現在の子どもたちの抱えるさまざまな問題点についても話しが展開した。

  • 「どんな画材で描かれている?」
  • 「最初にどこから描いた?」
  • 「いちばん目立つのはどこ?」
  • 「触ったらどんな感じ?」

上記のような「投げかけの言葉」が、キャプションの内容としてリストアップされた。

技術的な問題を意識させるとしても、子どもたちに、何がいちばんよいことかを考えるとき、改めて、鑑賞の目的はどうなるのか?

鑑賞の方法(仕方)を教えることか。人格の形成に役立てることか。

いまの子どもたちには空間を認識する能力(空間概念)が不足しているのではないか。

数学の先生からも、そのような指摘を受けたことがある。

現実のモノを見て、絵に描くという経験が不足しているのかもしれない。

図工の時間に、写生やスケッチをすることがない学校もある。

三次元の立体物を二次元の平面に表現する、あるいは逆に、二次元の平面に表現された対象を三次元の空間に立体化するなどの学習は、さまざまな意味で重要ではないか。

「鑑賞ツール」の新しいアイデアについて

「投げかけキャプション」について討議している過程で、新たな課題が浮かび上がったことから、改めて、別種の「鑑賞ツール」のアイデアとして検討することとなった。

小・中学生たちが、空間の概念を的確に認識し、とくに、立体を感覚として捉えるためには、どのような方法があるだろうか。実際に学校の先生から、どのようにしたらよいかという相談を受けたことがある。

「造形遊び」などは、本来、そのような目的で行なわれているのではないか。

しかし、現状での「造形遊び」の成果には、かなり問題があると言わざるを得ない。

マンガやアニメの「フィギア」を作ることも、平面に表現された対象を三次元の空間に立体化するという意味では役に立つかもしれない。

小・中学生たちに、立体的な空間概念を理解させるためのツールの開発が必要かもしれない。

立体物を三次元空間の中で把握し、認識する能力は、対象を的確に捉えるために必要であり、絵画や彫刻の分野を問わず、鑑賞を深めることにつながっていく。


次回の研究会

作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」について、まとめを行ない、いよいよ実際の制作につなげるため、その具体的な詳細にまで検討を進める。また、新たな課題として浮上してきた、子どもたちにおける空間概念を理解する力の不足を補うためのツールについても、引き続き考えていきたい。

 

第8回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時20071130日(金曜日)
  
1830分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加中学校教員  1名
  
美術館学芸員 5名
  
合計       6名

 2007(平成19)年1130日、第8回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 これまで2回にわたり、検討を続けてきた、美術館で発行している絵葉書に「投げかけキャプション」を組み合わせたキットを、具体的に、どのようなツールとして作成できるかについて話し合いを進めました。

【今回の議題】

絵葉書を用いた「投げかけキャプション」に採用する言葉について

「投げかけキャプション」の内容として、これまでに挙げられた「言葉」がふさわしいかどうか、また、どのような「言葉」を選べばよいかについて、下記のような観点から分類を行なった上で検討した。

  • 作品の内容に関わること
  • 技術・技法・画材に関すること
  • 作家・考え方・様式・歴史的背景に関すること
  • 抽象画に使えるもの
  • 風景画に使えるもの
  • 静物画に使えるもの
  • その他の具象画に使えるもの

そろそろ、「投げかけキャプション」に記す「言葉」の候補は出揃ったのではないか。

描法や技法などの知識を意識させる「言葉」が、まだ、少ないかもしれない。

投げかける「言葉」の表現には、子どもたちに対する教育的要素が必要か?

ただ、「言葉」を投げかけるだけに止めてよいのか。それとも、鑑賞の授業にも使えるようにするのか。

「投げかけキャプション」の目的を、もう一度、確認した方がよい。

目的がはっきりとしないと、なかなか「言葉」も決まらないだろう。

投げかけられた言葉によって、いろいろな意見が出ることは、鑑賞の広がりや深まりにつながるのだろうか?「言葉」を選ぶときには、そのような観点も必要だ。

現在の小学校では、どのような図工の教科書を使用しているのか。子どもたちがいつも使っている図工の教科書の内容は、「言葉」を選ぶときの参考にならないか?

絵葉書を用いた「投げかけキャプション」の目的

現在、小学校で使用されている図工の教科書が用意され、それを全員で見ながら、話し合いを進めた。

これらの教科書を見ると、世界の美術史上で「名画」と呼ばれるような作品の画像が、ほとんど掲載されていない。

掲載されているのは、ほとんどが、同学年の子どもたちによる制作の写真だ。こういう制作が「造形遊び」なのだろうか?

子どもたちの制作のレヴェルも、むかしに比べるとかなり低下している気がする。

現在の子どもたちが、たとえ、画像や写真ででも、歴史上の傑作や名作に出会う機会がないことは、大きな問題ではないだろうか?

絵葉書を用いた「投げかけキャプション」を配布することで、優れた作品を見る機会を提供することができないか。

県内の美術館が所蔵するさまざまな作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」をまとめたら、そのまま、効果的な資料集にもなる。

鑑賞の授業がほとんどない――(美術が専門でない先生方には、実施は困難)――現状では、とにかく、子どもたちが、絵葉書の写真図版であっても、優れた作品に触れる場所として、「投げかけキャプション」を考えればよいのかもしれない。

それならば、授業に使用する、しないにかかわらず、まず、多くの学校に、大量に配布して、掲示してもらうことが目的となる。

この研究会では、ツールとして作ることだけに専念し、使い方は現場の先生方に考えてもらってもよい。

「投げかけキャプション」のツールとしての形態

上記の議論を踏まえ、「投げかけキャプション」のツールとしての具体的な形態をどのようにするかについて、話しが展開した。

現場の先生方も、とにかく忙しいので、掲示するのに準備が必要ないツールでなければいけない。

葉書用の額1点、絵葉書数点、キャプション数点のセットにしたらどうか。

葉書用の額1点、絵葉書1点、キャプション1点のセットで、絵葉書やキャプションを取り替える手間を減らした方が、忙しい先生方には受け入れられ易いのではないか。好評であれば、あとからキャプションを追加すればよい。

額とキャプションをリングでつなぐようにすれば、あとでキャプションだけを取り替えられる。

額とキャプションが別々だと掲示方法に制約が出来る。「言葉」をよく選び、額の上にキャプションを印刷するなど、一体化させた方がよい。美術のツールとしては、見栄えもよくなければいけない。

額とキャプションは一体になっていた方が、デザイン的にもすっきりとするし、子どもたちに与えるインパクトも大きいと思う。

むしろ、額のコストを最低限まで切り詰めて、さまざまなパターンの「言葉」を記した額を大量に配布できるようにした方がよい。

大量に配布することを考えるならば、コストや労力の面からも、製作工程が単純で済む簡潔な形態がよいだろう。

ここまで議論が進めば、そろそろ、試作品のアイデアができるのではないか。

前回からの課題である、子どもたちに立体的な空間概念を理解させる方法についても、もちろん、新たなツールの制作も別に考えなければいけないが、まずは、世界中の優れた絵画作品に親しむことを、その第一歩とできるかもしれない。


次回の研究会

作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」を、どうにか、具体的なかたちにしてみる。もし、試作品のようなものができれば、それについて討議を行なう。また、子どもたちの、空間概念を理解する力の不足を補うためのツールについても、引き続き、新しいアイデアを考えていきたい。

 

第9回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時20071220日(木曜日)
  
1830分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加大学関係者  1名
  
美術館学芸員 1名
  
合計       2名

 2007(平成19)年1220日、第9回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 これまでに検討してきた、美術館で発行している絵葉書に「投げかけキャプション」を組み合わせたキットの試作品が提出されたので、その実用性などについて評価しました。

【今回の議題】

絵葉書を用いた「投げかけキャプション」の試作品について

小杉放菴記念日光美術館の田中氏から提案された、ダンボールを材料とする「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キットの試作品について検討した。


「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キット試作品

  • 外寸はインチサイズのマットに合わせて202×254mmとした
  • 窓の寸法は、通常サイズ(100×148mm)の葉書が収まるように、96×144 mmにした
  • 窓の裏側に、A6サイズの写真整理用フィルムパックをテープで貼り付ける
  • 表側に、「投げかけキャプション」用の言葉を印刷した紙を貼る
  • (可能であれば、ダンボール表面に直接印刷する)

このようなものでよいのではないか。

試作品の写真をホームページに掲載し、たたき台として検討してもらうのはどうか?

その写真をもとにして、各自が工夫してみればよい。

次回、それぞれが独自に作成してみたものを持ち寄ってみると面白いかもしれない。

英文資料の提供と、その内容について

宇都宮大学の石崎氏から、作品のジャンルや、子どもたちのスキルにより、鑑賞方法のひとつとしての言葉を分類するのに役立つ英文資料が提供された。

Hardin, L. & Sederstrom, C(1999) Improving student ability to critique art through the development of higher level thinking skills, Saint Xavier University

これまでに提示された、「投げかけキャプション」に用いる言葉を集めて分類すると、下記のような結果になっている。(栃木県立美術館の島氏による分類)

ここで挙げられた言葉を、石崎氏から提供された資料による基準で分類し直してみてはどうだろうか?


次回の研究会

各自が工夫した試作品を持ち寄り、作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」については、具体的なツールとしての完成を目指すとともに、引き続き、新たな課題として浮上している、子どもたちの空間概念を理解する力の不足を補うためのツールについて、検討を進めていく。

 

10回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2008124日(木曜日)
  
1830分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加大学関係者  1名
  
中学校教員  1名
  
小学校教員  1名
  
美術館学芸員 3名
  
合計       6名

 2008(平成20)年124日、第10回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 最初に、東京国立近代美術館による教材セットの検分を行ない、引き続き、前回の研究会で提案された「投げかけキャプション」と、今回、新たなアイデアで作成された2つの「投げかけキャプション」とを、併せて比較・検討しました。

【今回の議題】

東京国立近代美術館の教材セットについて

5分授業用と45分授業用がある。

授業の例としては、アメリカのヴィジュアル・シンキング法に比べ、観察や問いかけが細かいようだ。

「投げかけキャプション」+絵葉書の試作品A~Cについて

試作品A(小杉放菴記念日光美術館の田中氏の提案)について




「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キット試作品A

  • ダンボールの額に、「投げかけ」の言葉を印刷した紙を貼ったタイプ
  • 改良型として、ダンボールの額に直接、言葉を印刷したタイプも計画中
  • 「投げかけ」の言葉はそのままで、絵葉書を取り替えることになる
  • 作品の絵葉書に合わせて、縦型と横型が、それぞれ必要
  • 言葉の内容は「投げかけ」に絞られる

とてもシンプルで、掲示用にはぴったりだ。

多くの「言葉」は入れられないが、小学校にはちょうどよいかも知れない。

たしかに、製作は簡単そうだ。実際に安く製作できれば、多くの学校に配布することが可能になる。

試作品B(栃木県立美術館の島氏の提案)について




「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キット試作品B

  • ダンボールの額に、透明ポケット付のフィルムを被せるタイプ
  • 絵葉書とキャプションのそれぞれを取り替えることができる
  • 透明ポケットの数は4つ
  • 絵葉書と「言葉」は、一対多の関係にできる
  • 透明ポケットには、「投げかけ」の質問と答えのテンプレートを入れる

「言葉」も入れ替えることができるので、汎用性が高い。

「投げかけ」の質問と答えのテンプレートが用意されたことで、子どもたちに、その理由を考えさせることができる。

4つの透明ポケットがあり、いろいろな「言葉」を組み合わせて使うことができることから、より高度な鑑賞が可能になるかもしれない。

中学生くらいのレヴェルの鑑賞にふさわしいのではないか。

材料費を抑える努力も見られる。

試作品C(宇都宮大学の石崎氏の提案)について



「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キット試作品C

  • ……額の左右に、引き出し式のタブがついているタイプ
  • ……やはり、絵葉書を取り替えて使用する
  • ……左側には、作品の要素を4項目に分類したテンプレート
  • ……右側には、鑑賞の行為を6項目に分類したテンプレート
  • ……左右の項目を組み合わせることで、鑑賞の道筋を作る

かなりツールらしい仕上がりになっている。

タブを引き出すと、質問が隠れている発想はオシャレで、遊び心をくすぐられる。

ただし、掲示用としては完成度が高すぎるかもしれない。制作費が高くつきそう。

実際の授業で使えればよいが、残念ながら、一学級の生徒数分を作る予算は無理だ。

このツールは、掲示用ではなく、授業用として有効だろう。

教師が子どもの発言を分析する際に使うことができるのではないか。

左右のタブを引き出すという、このツールの機能を、コンピュータ上で再現してWebなどで公開することができれば制作費の問題は解決する。

試作品の全体として

これらの試作品は、A  B  C という順番で、子どもの発達段階に合わせて使用できるのではないか。

この3つを、発展的にステップアップさせて使うと効果的な気がする。

その場合、BとCの間の段階をつなぐツールがあった方がよい。

〈あーとネット・とちぎ〉と学校の現状を考えると、やはり、低予算でできることは重要だろう。

そろそろ、これらの試作品を実際に子どもたちに試してみてもよい時期ではないか。

「投げかけキャプション」+絵葉書の活用方法について

どこかの現場で「投げかけキャプション」の試験運用ができればよいが……

試作品Aのタイプであれば、すぐに複数個を製作し、モニタリングすることができる。

……この日、研究会に参加していた、宇都宮市内の小学校教員のクラスで、試してもらうことになった。

……次回の研究会までに、試作品Aのタイプの縦型と横型を、それぞれ製作してくる。

小杉放菴記念日光美術館で開催される、〈出会いの美術〉展に来館する子どもたちに、試作品Bを使用することを前提にして、好きな作品と「投げかけキャプション」の言葉を選んでもらってはどうだろうか?

口頭で好きな問いに答えてもらうことは可能だろう。

それによって、子どもが答えやすい問いを析出できるのではないか。

……すぐに、「投げかけ」の言葉をまとめたプリントを用意する。

http://art-net.sakura.ne.jp/etc/group/psg/2-etg/2-pdf/2-etg_10.pdf


次回の研究会

「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キットの、新たな別のアイデアがあれば、引き続き、その試作品を提示してもらう。また、試作品Aと試作品Bについての、モニタリングの準備を完了する。

 

11回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2008220日(水曜日)
  
1830分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加中学校教員  1名
  
小学校教員   1名
  
美術館学芸員 3名
  
合計       5名

 2008(平成20)年220日、第11回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 今回は、新たに提案された「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キット試作品の検討を行なったのち、新しい『学習指導要領』の内容について討議し、ついで、今後の活動についても話し合いました。

【今回の議題】

「投げかけキャプション」+絵葉書の試作品Dについて

試作品A(一条中学校の青木氏の提案)について



「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キット試作品D



「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キット試作品D

  • 色紙を利用し、三角コーナーで絵葉書とキャプションをセットするタイプ
  • 色紙は、百円ショップで2枚1組を購入できる
  • コーナーやキャプションを入れるポケットには、使用済みの封筒を再利用する
  • 製作は、きわめて簡単で、安価
  • 絵葉書とキャプションのそれぞれを簡単に取り替えることができる

市販の三角コーナーのシールを利用すれば、もっと見栄えがよくなるのではないか。

製作が簡単なので、各自が工夫し、卒業記念に授業で作るのもよい。

このタイプならば大量に製作できるが、意外と、学校で掲示できる場所は少ない。

学校での掲示場所には、いろいろな配慮が必要となる。

この試作品も、すぐにモニタリングに利用できる。

「投げかけキャプション」のモニタリング



モニタリングに使用する試作品Aの説明書入りパッケージ

御幸小学校と一条中学校において試作品Aと試作品Dを、それぞれ試してもらい、次回以降に報告してもらう。

●218日に小杉放菴記念日光美術館で開催された上都賀地区中学校教育研究会美術部会研修会(研究授業)でも、参加した先生方に試作品Aの説明書入りパッケージを配布したので、いずれ、なんらかの反応があるかもしれない。

新しい『学習指導要領』について

「言語力」という項目は何をめざしているのか。

作品(表現)の補足なのだろうか?作品(表現)をめぐる対話なのだろうか?

作品(表現)の補足としての「言語力」というのは、本来、美術の表現には必要がないものではないのか?

「共通事項」とは、図工美術科だけに存在する項目で、全てのジャンルを通じて指導の際に注意を払うべきとされている。色・形・イメージなどの、造形要素に関わることに重点が置かれている感じがする。

今後の活動について

研究会の活動として、ワークショップなどに使える平版プレス機を製作してみてはどうだろうか?

版画家や、機械製作の技術者たちとの連携をはかることができる。

もし、うまく製作できたら、学校や個人への有料頒布も視野に入れてみる。

その他、これまでの研究会で話題になったツール案についても、引き続き、試作をしてみたい。

素材やテクスチャーを実際に触れて、触感覚を確認するためのツールは、それぞれ別の素材を貼付した六面体で試作してみてはどうか。

立体空間を把握させるためのツールについても、アイデアを考えてゆきたい。

「わくわくツール」、「つかみツール」として、鑑賞の導入に役立つ、ゲーム性のあるツールも必要だろう。


次回の研究会

「投げかけキャプション」付の額縁ツール・キットを実際に用いたモニタリング調査について報告を行なってもらう。また、次回は〈鑑賞ツール研究会〉に引き続いて役員会も開催し、今年度のまとめと、来年度に向けての事業計画を話し合う。

 

12回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時2008321日(金曜日)
  
1700分~
会場
栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加高等学校教員 3名
  
中学校教員  1名
  
小学校教員  1名
  
美術館学芸員 4名
  
合計     9名

 2008(平成20)年321日、第12回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 今回は、〈役員会〉と同時に開催されたため、これまで、〈鑑賞ツール研究会〉で検討されてきたテーマについて、役員にも説明し、意見をもらいました。

【今回の議題】

「投げかけキャプション」+絵葉書の試作品のモニタリング

●218日に小杉放菴記念日光美術館で開催された上都賀地区中学校教育研究会美術部会研修会における研究授業のとき、「投げかけキャプション」+絵葉書の試作品と、それについての、アンケート用紙を配布したが、結局、反応は1通もなかった。

御幸小学校と一条中学校で実施してもらった「投げかけキャプション」+絵葉書の試作品についてのモニタリング調査の報告は、両校の担当者がともに本日の研究会へ出席できなかったため、次回に行なうことになった。

これまでの活動についての役員の意見

「投げかけキャプション」に用いる言葉を集めて分類したリストは役に立つ。

「投げかけキャプション」だけでなく、いろいろなワークシートを作るのにも、十分、利用できるのではないか。

ここに集められた言葉だけで、ワークシートができてしまう。

改めて、リストをまとめなおし、「あーとネット・とちぎ」のホームページ上の、よりアクセスしやすい場所に、すぐに見られるようなかたちで掲載する。

素材ツールのアイデアについて作家の立場から言えば、作品の「鑑賞」へつなげるのがむずかしいように思う。

平版プレス機は、作るのもたいへんだろうが、学校などへの有料頒布は、備品費や請求方法の問題もあり、かなりむずかしいのではないか。

工場などの協力を得て、地域の技術力を結集して作ることができれば、それはそれで、おもしろい展開になるかもしれない。

役員会としての議題

新年度に向けて、人事案件を検討した。

学校における定例の人事異動に伴い、「あーとネット・とちぎ」の次年度の役員構成をどうするかについても調整が必要になる。

宇都宮美術館の岡本氏の京都への転出によって、副会長が1人、空席になっているが、後任を、やはり、どこかの美術館から出せないか。

新年度は、総会を控えているため、それに伴う主催イベントの内容について検討した。

当日の出席者から、何人かの講師案が出され、それについての説明が行なわれた。

「あーとネット・とちぎ」の運営資金について、各部会から一括して納入される会費の状況と、パートナーとのバナー契約の期限などを確認した。

次回の研究会

とりあえず、新年度になってからの最初の研究会の日程を、427日(日)と決める。次回からは、これまでの主要な出席者の状況を踏まえ、原則として土・日に研究会を開催することになった。また、新たな研究会の名称については、これまでの議論を踏まえ、次回の研究会で、改めて検討してから決定することにした。

 

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