展覧会レポート 今日の彫刻 冨井大裕展―トルソ、或いはチャーハン 栃木県立美術館 9月3日(日)まで

2023年8月2日水曜日

【4】レポート

今回は、月例会メンバーの小堀修司(宇都宮美術館)が、栃木県立美術館で開催されている「今日の彫刻-冨井大裕展―トルソ、或いはチャーハン—」についてレポートします。

【栃木県立美術館の外観と展覧会チラシ】


[並べて、重ねて、しっくりくる]

私はこどもの頃よく、本、おもちゃ、日用品を並べたり重ねたりして遊んでいました。その最中に、それらが新しい一つの世界を作り出し、美しく輝いて見えるようなことがありました。また、今でも、人が置いたもの等が元からあったものや周囲となじみ「何かしっくりくる」と感じ瞬間があります。きっと多くの方がこのような記憶や感覚を持ったことがあるのではないでしょうか?

【自分の机で「しっくりくる」を目指して並べました。出来は見ての通り、
残念⁉です が、楽しいです。】


[日用品を彫刻に]

さて、冨井大裕さん(1973年に生まれ)は、画鋲、色鉛筆、クリップ、スーパーボールなどさまざまな日用品を、ほとんど加工することなく、並べる、積み上げる、重ねるといった方法で作品を制作するアーティストです。粘土、木、石などの素材と向き合い造形するのではなく、日用品の組み合わせで、独特の形を作り出しています。例えば、2015年に発表された《8jeans》は、ジーンズを展示会場の壁に縦長につけた作品で、通常履くものであるジーンズが、大きな抽象絵画あるいは彫刻に変貌しました。

【《8 jeans》ジーンズ、釘 800×48×36cm 2015年 撮影:柳場大©Motohiro Tomii, Courtesy of Yumiko Chiba Associates


[日々見出すー2827点の写真]

展覧会会場に入るとまず目を引くのが、高低差のある展示空間に、ずっと同じ高さで並ぶ《今日の彫刻》という写真シリーズです。この写真は、冨井さんが日々Twitterで公開しているものです。1つ1つを見ていくと、冨井さんが彫刻的だと感じたものが捉えられているようです。2827点も展示されているので、きっと誰しもが、「これわかる。彫刻に見える。」と感じるものが見つかると思います。床が低くなると遠くて見えないほど高く展示されている場所もあります。そうすることで、自然と展示室の天井や床など普段気にしない場所に目が向けられ、「あれ、これも彫刻みたい」と気付きを誘う仕掛けとしても機能しているように感じられました。


【左:ずっと同じ高さで展示された《今日の彫刻》2011年~】
【右:同シリーズよりお気に入りの2枚。ふと目にしたブロックの積まれ方にしびれる瞬間って、ありますよね。】

 

[お風呂道具とスーツケース]

お風呂の椅子と桶を重ねた《メロー》を見ると、「色は1色で主張しないものを選んだのかも」、「組み合せがおもしろいな。」等と感じ、「自分も空いてる銭湯に行けばできないかなぁ(ケロリン桶でも冨井さんなら、かっこよく作れるのかやって欲しい)」等と想像と創作意欲が掻き立てられます。

《旅行者の制作》は、スーツケース、布、木枠等から成る作品で、スーツケースに一式が収まるように作られています。海外でスケッチをしていた際に、旗などの平面的なものがあると、どんどん人が集まってきた経験をもとに、制作されたそうです。このシリーズ作品は複数展示され、呼応するように配置されています。

 

【左:《メロー#2》ポリプロピレン製湯桶、ポリプロピレン製手桶、鉄、ボルト、ナット、2020年 デュシャンの《ボトルラック(瓶乾燥器)》や抽象彫刻が思い出される。】

【右:《旅行者の制作#1》スーツケース、布、木材、ボルト、ナット、ワッシャー、荷物()、2017年 屋外でさっと組む姿とそれを見た人の反応を目撃したい。】


[軽やかに楽しく]

「何をもってアートになるかという問いかけこそがアート」となって久しい昨今、「どのようなものが彫刻たりうるか?」を文字通り日々探し続け、これぞという形で作品にし続ける冨井さんは、まさに現代的な彫刻家だと言えるでしょう。

より検証を深めるために、見出すことに主眼を置いた「レディメイド」を軸に、日用品のイメージを用いた「ポップアート」、鉄板などをシンプルに配した「ミニマリズム」、概念に重きを置いた「コンセプチャルアート」、ものの日常的な意味を棚上げしとされる「もの派」と「ポストもの派」など先行する多様な美術動向との比較が必要だと思われます。

しかしまた、それを待たずとも、冨井作品には「これも彫刻?という問いを提示しつつも、日用品を誰しもができうるシンプルな方法でくみ上げ、楽しく軽やかな雰囲気を放っている独特の魅力があるのは間違いありません。

ギャラリーや美術館にあるものが美術作品で、日用品は日用品という習慣的な考え方から解放され、身の回りが美に溢れているという自由な気持ちになれる必見の展覧会です。


追記1栃木県立美術館のコレクション展「CollectionⅡ 美術館に行ってみよう!」は、非常に丁寧な解説が多数加えられた労作。これもまた見逃せません。

追記2冨井作品からは、「無用の長物」となった物件を「トマソン」と名付けた赤瀬川源平さんの姿勢に通じるものを感じます。また、そのもの自体、そこで起きている出来事に対峙することで、解放感を得る」と語り、独自な方法でたたんだTシャツを作品化する等したアーティスト高柳恵里さんとは、何か同時代的な共通点があるかもと感じています。

追記3 日用品を最小限にするミニマリストや断捨離が注目されて久しいですが、思い入れと要不要ではなく、ものに創造力を持って向き合う姿勢は、ものに溢れた現代社会を生き抜く上で、重要だと感じます。

               あーとネット月例会メンバー 小堀修司(宇都宮美術館) 

 協力:冨井大裕さん 

    山本和弘さん (栃木県立美術館 担当学芸員)  

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今日の彫刻‐冨井大裕展―トルソ、或いはチャーハン—

栃木県立美術館 202393()まで

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参考文献他

1冨井大裕ほか、「冨井大裕 みるための時間」、水声社、2023

 2023年の717日まで開催されていた新潟市美術館の展覧会図録

栃木県立美術館 冨井大裕展 アーティスト・トークhttps://www.youtube.com/watch?v=P7LJ5S_sxa0 2023727日閲覧



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