今回は、月例会メンバーの小堀修司(宇都宮美術館)が、文星芸術大学ギャラリーで開催されている『渋谷明弘の「遊ぶ」ことで「世界」がみえてくる』展についてレポートします。
[ビー玉アーティスト!?]
渋谷明弘さんは、文星芸術大学で油彩画を専攻した宇都宮ゆかりのアーティストです。渋谷さんは、時には動力も含め(!)手作りで、ビー玉が転がる装置型の作品を制作しています。響き渡るビー玉の転がる音、ビー玉がキラキラと輝くための光の照射といった要素は、こどもの頃に取り組んだ楽しい工作を思い起こさせます。2015年に神戸ビエンナーレの創作玩具国際コンペティションで、奨励賞を受賞されたことからも分かるとおり、渋谷作品の肝は遊び心にあるようです。
[展示と論文]
さて、そんな渋谷さんの今回の展示では、これまでの主要作品が一堂に会し、ギャラリーがビー玉装置の秘密基地へと変貌を遂げています。このブログを書いている6月16日現在は、「遊びの準備」と題された公開準備期間だったため、作品も未稼働でしたが、「ビー玉をここにいれるのだろうか?」「この作品でビー玉はどう動くのだ!?」等々、かつて工作少年だった私はもうワクワクが止まりませんでした。
【秘密基地となった文星芸術大学ギャラリー】
【「ビー玉落下音研究所」と題された看板も!】
加えて、今回は、渋谷さんが卒業後に継続して取り組んだ論文も併せて公開されています。ご本人の説明によれば、セザンヌのりんごが落ちそうに「見える」絵と同じく、「遊ぶ」ことを「中動態」とみなしそれを説明したものだそうです。(まだチラ見しかできていません。また、読みに行きます。)
[遊んで、考え、世界を見る。]
遊び要素と芸術学的な探求を形にしただけでも面白い作品の背景だと思いますが、もう1つ私が気になっているのは、渋谷さんの大きな社会問題に対する言及です。今回出品されているある作品では「If 3.11 TUNAMi is t」の文字が描かれています。それを見ると「もし津波が○○でなかったらと」想像してみることが促されます。また展覧会の案内DMには、真鍮とパラジウムという共にコロナ禍で抗菌作用が話題になった金属についての逡巡のような言葉が添えられてもいます。
【左下 作品に「If 3.11 TUNAMI is t」 の文字】
【DM「3.11、プルトニウム」等の言葉に驚かされる。】
あくまで、個人的な解釈の1つに過ぎませんが、渋谷さんの作品では、大きな社会問題自体を直接テーマにする訳ではなく、正直に自分が津波を怖いと感じる気持ち、あるいは、自身の制作で使う素材が抗菌作用で注目された驚きなどを出発点に、渋谷さんが「もし…」と想像したことが正直に表されているように思います。話題性に乗っかるのでもなく、あくまで自分の手の届く範囲での可能性を想像する。私にはそれは、小さなビー玉を通して社会を見る作家が、作品と大きな世界を想像力豊かにつなげようとする姿勢だと感じられました。ブログ公開の頃には、「遊ぶ」期間となり、ギャラリーにビー玉の転がる軽快な音とライトに照らされた綺麗な光に満ちていることと思います。つくる喜びの原点にあふれた展覧会に、是非足を運んではいかがでしょうか。
あーとネット月例会メンバー 小堀修司(宇都宮美術館) 協力:渋谷明弘
『渋谷明弘の「遊ぶ」ことで「世界」がみえてくる』 文星芸術大学ギャラリー
「遊びの準備」6.12(月)-6.16(金)
「遊ぶ」6.17(土)-7.7(金)
「遊びの片付け」7.10(月)-7.14(金)
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